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2024年3月号(2)
ライフプラン
CFP®認定者 山本 敦

いつかは訪れるかもしれない認知症~知っておきたい成年後見制度~

 「人生100年時代」を健康で楽しく全うしたいと考える人は多いと思います。一方で、「健康寿命」と「平均寿命」との差は、男性が約9年、女性が約12年で、日常生活に制限のある健康ではない期間があります。その原因の1つに認知症の発症があり、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症患者と見込まれています。そこで今回は、認知症への備えとして成年後見制度について解説します。

認知症になると

 認知症の症状は様々ですが、一般的には判断能力が不十分になり、普段の生活をはじめいろいろな場面において自身での対応が困難になってきます。具体的には、財産管理(不動産・預貯金などの管理や相続手続きなど)や身上保護(介護・福祉サービスの利用契約や施設入所・入院の契約の締結など)などです。また、自身に不利益な契約であっても、正しい判断ができずに契約を結んでしまい、被害に遭うおそれもあります。このように認知症などの理由で判断能力が不十分な人の権利を法的に擁護し、本人の意思を尊重した支援(意思決定支援)を行うための公的制度として「成年後見制度」があり、大きく「法定後見制度」と「任意後見制度」に分けられます。

法定後見制度とは

 法定後見制度とは、本人の判断能力が不十分になった後に、本人や配偶者などが家庭裁判所に後見等の開始の申立てを行い、同裁判所によって成年後見人等が選任される制度のことです。本制度では、認知症や障害の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3種類があり、法律で定められたそれぞれの権限の範囲内において、上記(■認知症になると)の財産管理や身上保護などで本人の代理をしたり、本人が締結した契約を同意もしくは取り消したりすることができます。

任意後見制度とは

 一方で、任意後見制度は、まず本人が十分な判断能力を有しているときに、任意後見人になる人とその人に委任する内容を公正証書による契約で定めておきます。その後、本人の判断能力が不十分になった後に、本人や配偶者などが家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行い、同裁判所による選任などを経て任意後見人が委任された内容を本人に代わって行います。
 法定後見制度と異なり、「本人が希望する人」に「本人が希望する内容」で後見してもらうことが可能です。そのため、独身の人や高齢夫婦のみの世帯などで将来の身の回りの対応に不安を持ち、その備えの必要性を感じている場合は、任意後見制度の利用を検討するとよいかもしれません。
 なお、2022年の成年後見制度の申立件数は約3.9万件、同年12月末での利用者数は約24.5万人となっています。また、選任された成年後見人等と本人との関係は「親族以外」が8割を超え、「親族」の割合を大きく上回っています。

まとめ

 成年後見制度は、一度利用を開始すると原則取り止めることはできません。また、法定後見制度の場合は、後見人などに「親族」が選任されないことで想定外の不便を感じる可能性もあるため、制度の利用に当たっては注意が必要です。一方で、国は本制度の運用改善などを行うことでより利用しやすい制度にするために取り組んでいます。認知症をはじめ日常生活に影響を与える傷病に備えて情報収集や事前準備をしておくことが大切です。

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