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利用しやすくなった相続時精算課税について
贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、受贈者(贈与を受けた人)は贈与者(贈与をした人)ごとにそれぞれの課税方法を選択することができます(何も選択しなければ暦年課税となります)。2023年度の税制改正により、2024年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る相続税または贈与税について、2つの課税制度に改正があり、相続時精算課税制度は利用しやすくなりました。そこで今回は、相続時精算課税制度について解説します。
相続時精算課税とは
相続時精算課税は、親子間などの贈与で一定の要件に当てはまる場合に選択できる制度です。基礎控除(年110万円)と特別控除(累計2,500万円まで)により、一括で最大2,610万円までの財産を贈与税の負担なく贈与することが可能ですが、贈与者の相続時にこの贈与財産(基礎控除額を除く)を加算したうえで相続税の計算を行うこととなります。また、一度同制度を選択すると暦年課税に戻すことができません。制度の概要は下表のとおりです。
【概要】 ※赤字=2023年度の税制改正により創設・導入された部分
対象者 (原則) |
贈与者:60歳以上の方(父母、祖父母など) 受贈者:18歳以上で、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫 ※贈与年の1月1日時点でそれぞれの年齢に達していること |
贈与税の 計算方法 |
{(その年に贈与を受けた財産の価額の合計額-基礎控除額110万円)-特別控除額2,500万円}×20% ※特別控除額2,500万円は累計の最高額のため、すでにこの特別控除を適用した金額がある場合には、2,500万円からその金額の合計額を控除した残額とする |
適用手続き | 相続時精算課税選択届出書などの書類を、贈与年の翌年2月1日~3月15日までの間に受贈者の納税地の所管税務署に提出 ※相続時精算課税が適用された後は、贈与額が基礎控除額以下の場合は申告不要 |
贈与者の 相続時 |
この制度により贈与した財産は、贈与時の価額(贈与した土地・建物が災害により一定の被害を受けた場合は災害による被災価額が控除される)で相続財産の価額に加算される ※贈与時の価額から控除する基礎控除額は、相続財産の価額に加算しない ※納付済みの贈与税は、相続税から差し引ける(贈与税の方が多い場合は還付) |
改正のポイント
2023年度税制改正により、相続時精算課税制度に「基礎控除の創設」、「不動産の災害による再計算の導入」がされました。改正前の同制度は、贈与の都度、毎年税務署に申告が必要でしたが、改正後は、基礎控除額以下の贈与であれば申告不要となり、かつ、基礎控除額は相続時の相続財産への加算が不要となりました。
また、受贈者は贈与者ごとにそれぞれの課税方法を選択することができるため、暦年課税の基礎控除(年110万円)と相続時精算課税の基礎控除(年110万円)は併用が可能です。例えば、毎年両親(60歳以上)から110万円ずつの贈与を18歳以上の子が受ける場合、父親からの贈与は相続時精算課税を選択、母親からの贈与は暦年課税とすることで、それぞれの基礎控除が利用でき、年220万円の財産を贈与税の負担なく子に贈与することができます。
まとめ
2023年度の税制改正により、利用しやすくなった相続時精算課税制度ですが、一度選択してしまうと暦年課税に戻せないため、選択には慎重な検討が必要となります。また、贈与者は必要以上に資金を贈与してしまい、困窮してしまっては元も子もありません。まずは自身の老後資金を十分に確保したうえで贈与について検討しましょう。
- ※バックナンバーは、原則執筆当時の法令・税制等に基づいて書かれたものをそのまま掲載していますが、一部最新データ等に加筆修正しているものもあります。
- ※コラムニストは、その当時のFP広報センタースタッフであり、コラムは執筆者個人の見解で執筆したものです。