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シリーズ:リタイアメントプランニング 「成年後見制度」
「人生100年時代」と言われ長寿化が進む中、認知症や介護状態にある高齢者も増加しています。年齢を重ねることで誰にでも起こりうるリスクを把握するだけでなく、早めに対策を取ることで今後の選択肢も多くなります。
気になる親のこと、自分自身の将来のためにどのようなことができるのか、今回は加齢によるリスクと対策のひとつである「成年後見制度」を「知る」ところから始めましょう。
高齢化に伴うリスク「認知症」と「介護」
総務省が発表した2021年2月1日時点の人口統計の概算では、総人口1億2,562万人のうち90歳以上が251万人を超えました。この数字から人生100年時代が現実のものと実感できるのではないでしょうか。
加齢による身体機能の衰え、体力の低下、物忘れの加速などは人それぞれですが、日常生活への影響が大きくなると詐欺のような犯罪被害も心配です。また、介護にあたる子と介護できない子との間で、親のお金をめぐって争いに発展するケースも見受けられます。このようなトラブルを防止するため、金融機関では口座名義人が認知症になると、いわゆる「口座凍結」という親族による預金の引き出しを制限することがあります。
さらに、認知症となった場合には「契約行為」が行えません。自宅の売却代金を高齢者施設への入居一時金として充てる計画が、売買契約を締結できず思うように進められない事例もあります。
このようなトラブルを回避するために「成年後見制度」があります。
成年後見制度とは
成年後見制度は、判断能力が不十分な人の日常生活や財産、権利を守るための法律上の制度です。
後見人は日常生活の不安を取り除くためのサポート役として、病院への入院手続きなどの契約行為の代理や取消といった権利を持つと同時に、お金の管理や金融機関との交渉のような財産管理を本人に代わって行うことができます。
本制度では、守られる人を「被後見人」、守る人を「後見人」と呼び、本人などの申立てにより家庭裁判所が決定しますが、後見人には、家族・親族のほか、弁護士等の専門家や団体が選任されます。
成年後見には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。「法定後見」は判断能力が低下し、日常生活に支援が必要と判断された場合に本人などが家庭裁判所へ申し立てることで後見人が選任され、「任意後見」は判断能力が低下する前に、本人があらかじめ後見人及びサポート体制を契約により決めておくものです。
さらに「法定後見」は判断能力の程度に応じて、「保佐」「補助」「後見」の3類型に区別されます。
【法定後見】3つの類型
類型 | 補助 | 保佐 | 後見 |
---|---|---|---|
状態 | ・判断能力が不十分 ・物忘れは多いが自覚はある ・意思疎通は可能 ・契約書類などの理解が困難 |
・判断能力はかなり低下している ・自覚しない物忘れがある ・日常の買い物はできる ・意思疎通は困難を伴う |
・判断能力は常に欠けている ・日常的な買い物できない ・会話が成り立たない(意思疎通不能) |
申立て | 家族(親族)・本人・市町村長 | ||
権限 | ・限定的代理権 ・特定の同意権 ・取消権 ※内容決定は本人の同意必要 |
・代理権 ・取消権 ※いずれの権限も限定的 |
・代理権 ・取消権 ※いずれの権限も全面的 |
成年後見制度の注意点
あわせて、後見人が行えない主な3点を押さえておきましょう。
まず、日常生活を送るうえで消費(購入)したものに対する同意や取り消しはできません。続いて介護などの事実行為、そして医療行為への同意は後見人では行えません。介護を受けるための手配はできますが、実際の介助は専門家が行うこととなっています。医療行為は本人の意思にのみ判断される権利であり、特に人生の最終段階におけるものは後見人が関わってはいけないとされています。
また、後見制度を活用する際には以下のような注意点もあります。行動に制限や負担が生じる可能性もあるため慎重に検討することが大切です。
①被後見人の生活に必要な金額の引き出しは可能、その他の支出は家庭裁判所の承認が必要
②贅沢と判断される支出は承認されないケースも多い
例)同一生計世帯である配偶者の旅行費用、孫への入学祝、慶弔費など
③資産活用のための立替や売却はできない
④専門家等への報酬が継続的に発生し負担となる
報酬の目安は月額2万円
ただし財産額1,000万円超~5,000万円まで月額3~4万円、5,000万円以上は月額5~6万円
⑤専門職の後見人が選任され、家族と対立関係になることもある
早めの準備がポイント
ここまで認知症や介護に対する不安の解決策のひとつとして「後見制度」を解説してきました。どの解決策が最適であるかは家族構成、身体的・経済的状況や環境によりさまざまであり、何よりもその方の心配事や想いを優先することが大切です。
最近では、「後見制度支援信託」といった新たな仕組みも注目されています。被後見人の財産のうち、日常的な支払いに必要十分な金銭を後見人が管理し、通常使用しない余剰金銭(資産)を信託銀行に信託します。この仕組みでは、法定後見3類型のうち「後見」のみが対象であり、信託設定時に専門職後見人報酬(約20万円)の発生など制約もありますが、後見制度や信託契約の双方を補う仕組みとして有効かもしれません。
このような制度や仕組みについて早い段階から「知る」ことを意識するとともに、ご家族と相談しながら日頃より情報収集をしていくとよいでしょう。
総務省統計局 人口推計(令和2年(2020年)9月確定値,令和3年(2021年)2月概算値)
- ※バックナンバーは、原則執筆当時の法令・税制等に基づいて書かれたものをそのまま掲載していますが、一部最新データ等に加筆修正しているものもあります。
- ※コラムニストは、その当時のFP広報センタースタッフであり、コラムは執筆者個人の見解で執筆したものです。

