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2019年3月号(2)
ライフプラン
CFP®認定者 伊達 寿和

来年度改正の基礎控除・給与所得控除について

 近年、働き方が多様化しています。これまでの会社員と自営業という単純な働き方の違いだけではなく、会社員と同じような内容の業務を個人事業主として請け負うフリーランスといった働き方も増えてきました。そこで、2018年度の税制改正では、働き方の多様化や政府が主導する「働き方改革」をふまえた制度改正が行われます。
 今回は、税制改正を受けて2020年以後の所得税に適用される基礎控除および給与所得控除の改正内容を中心に紹介します。

基礎控除の控除額は10万円引き上げ、一方で所得制限も

 はじめに基礎控除の改正内容について紹介します。
 改正前の基礎控除の控除額は38万円であり、所得の多少に関わらず一定額となっています。今回の改正では、基礎控除が一律10万円引き上げられます。一方で、所得金額の高い人にまで一律に控除を適用する必要性は乏しいのではないかとの指摘を受け、高所得者については段階的に控除額が引き下げられます。

合計所得金額 控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円

給与所得控除の控除額は10万円引き下げ、上限を195万円に設定

 基礎控除の改正とあわせて、給与所得控除も改正されます。給与所得控除の控除額は、給与等の収入金額により段階的に設定されています。
 また、改正前の給与所得控除には上限が設定されており、給与等の収入金額が1,000万円超の場合は220万円です。この上限はこれまでの税制改正で少しずつ下げられてきましたが、今回の改正で大幅に下げられます。

給与等の収入金額 控除額
162.5万円以下 55万円
162.5万円超180万円以下 収入金額×40%-10万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円

 全体的には改正前の給与所得控除から控除額が10万円引き下げられています。同時に850万円超の場合は195万円の上限に抑えられますので、給与収入が多い場合は実質的な負担増となります。
 ただし、給与収入が850万円超の人の負担増をやわらげるため、新たに「所得金額調整控除」が設定されました。次の条件に該当する場合に適用されます。
・特別障害者に該当する人
・年齢23歳未満の扶養親族がいる人
・特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる人

 また、控除額は次の式で計算されます。
 (給与等の収入金額(※)-850万円)×10% (※)1,000万円が上限
 例)給与等の収入金額が1,000万円の場合、所得金額調整控除は15万円となります。
 (1,000万円-850万円)×10%=15万円

給与収入850万円以下は実質的には変化なし

 給与収入のある人にとっては、基礎控除と給与所得控除の両方が対象となります。したがって、今回の税制改正の影響を考える場合には、基礎控除と給与所得控除の両方を考える必要があります。

 給与等の収入金額が850万円以下の場合は、基礎控除が10万円増加する一方で給与所得控除が10万円減少するため、合計するとそれらが相殺されて実質的には変化がありません。これまで給与所得控除となっていた10万円が基礎控除に振り替えられたと考えてよいでしょう。
 一方、給与等の収入金額が850万円超の場合は状況が変わります。23歳未満の扶養親族がいる人など所得調整控除の対象となる以外は、段階的に控除額が減るため負担増となります。

 例として給与収入1,000万円の場合を考えてみましょう。基礎控除と給与所得控除の合計額で15万円の違いが生じます。控除額が減ることで、税負担が増えることになります。
 改正前:基礎控除38万円+給与所得控除220万円=258万円
 改正後:基礎控除48万円+給与所得控除195万円=243万円

 はじめに紹介した個人事業主やフリーランスなどは、基本的には給与所得控除がありませんので、影響を受けるのは基礎控除だけと考えられます。そのため、今回の改正で基礎控除の控除額が引き上げられる分、税負担は減ると考えられます。
 今回の改正では公的年金等控除も同様の改正が行われます。詳細は国税庁ホームページ等に掲載されています。

 財務省「平成30年度税制改正」
 国税庁「平成30年分 所得税改正のあらまし(PDF)」

 今回の税制改正により、給与収入が850万円を超える人については税負担が増え、収入から社会保険料と税金を引いた可処分所得が減少することになります。この可処分所得の減少は一時的なものではありません。そのため、毎月の家計だけでなく長期的なライフプランにも大きな影響がでてきます。これを機会に、家計の見直しやライフプランの再検討をしてみてはいかがでしょうか。

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