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2018年12月号(1)
ライフプラン
CFP®認定者 橋本 秋人

終活、何をしておくか

「終活」とは?

 「終活」は比較的新しい言葉です。2009年に週刊誌で紹介されてから社会的にも注目され、急速に広まったといわれています。
 終活というと、お葬式やお墓ばかりが注目されがちですが、それだけではありません。葬式や相続などの「エンディング」だけでなく、医療、介護、年金、資産管理、住まい、これからの暮らし方など、「人生後半期のライフプラン」まで広い分野がカバーされているのです。
 つまり、終活とは、「人生の最期のときを意識しながら、これからの人生を自分らしく生きる準備をし、亡くなったあとに備えること」です。
 本コラムでは、終活について解説するとともに、どのような準備を行うかについてまとめました。

「終活」が注目されるようになった理由

 なぜわが国で「終活」が短期間に社会に浸透したのでしょうか。
 日本は世界でも有数の長寿国です。厚生労働省の平成29年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性は87.26歳に達し、100歳以上の人は6万9,000人を超えています。超高齢化社会の進行に伴い、単身高齢者の孤独死、認知症患者の増加、空き家問題、相続トラブルの増加など、さまざまな社会問題がクローズアップされるようになりました。
 このような状況の中で、高齢者は「自分の最期は自分で決めたい」、家族からは「相続後のことを決めておいてほしい」などというニーズが強くなってきました。
 そこで、高齢者が今までの人生を振り返り、これからの後半期の生き方を展望するとともに、万が一のために家族に伝えておくべきことを整理しておく「終活」の重要性が増してきたのです。

「終活」で行う5つの分野

 終活では具体的に何を行うのでしょうか。終活の主な5つの分野について解説します。

①医療・介護
 病気になった時のために、治療方法、告知、終末医療などの希望を家族に伝えておくことは大切です。また、病歴や服用している薬、かかりつけの病院・ホームドクターなども分かると、介護が必要になったときにも役立ちます。
 万が一認知症により判断が困難になった時のために、任意後見制度や民事信託についても調べておくと良いでしょう。

②財産
 長い老後生活には、健全な家計収支の維持が必要です。年金など定期的に入ってくる収入を把握しておくことはもちろんですが、預貯金や有価証券などの金融資産を適切に管理することも重要です。
 どこにどのような財産があるのかを確認し記録しておくことは、これから安心して生活していくことも繋がります。

③住まい
 高齢者が自宅で安心して暮らせるように、手すりの設置、段差の解消などを行うバリアフリー改修については、低利の融資制度や自治体によっては補助金制度があります。
 また、心身の衰えや病気などの際には、高齢者住宅への住替えや施設への入所も選択肢になります。高齢者住宅・施設にはさまざまな種類があり、自立できる人、軽度の要介護度の人、重度の要介護の人など、それぞれの状態によって入居・利用できる住宅・施設も異なります。各施設のサービス内容や費用などを前もって調べておくと良いでしょう。

④相続
 相続が起こると、まず相続人と相続財産の確定が必要です。
 最近は、離婚、再婚、おひとりさまの増加などにより家族関係が複雑になってきました。そのため、相続後に思ってもいない人が相続人として名乗り出ることもあります。相続の時に誰が相続人になるのかをあらかじめ確認しておきましょう。
 相続財産には、金融資産以外に不動産や会員権、さらには負債や保証債務など負の財産も含まれます。また最近はネット銀行やネット証券など通帳がないために見えにくい財産も増えています。これらの財産や負債を名寄せし記録しておくと、万が一の時に家族の手続きなどがスムーズになります。
 相続で最も大切なことのひとつは、遺産分割時のトラブルを避け、円滑な財産承継をすることです。
 そのために遺言書の作成は有効な手段です。遺言は法定相続分に優先し、相続人の意思を最も有効に反映する手段だからです。現状では遺言書を作成する人の割合はまだ少なく10%以下ですが、今後は増加することが予測されます。
 終活においては、相続トラブルにならないためにこのような事前対策と共に、日ごろからの家族間のコミュニケーションが大切です。

⑤葬式・お墓
 最近は葬式にもさまざまな様式があります。葬式の希望や連絡先リストを家族に伝えておくことも、万が一の際に役立ちます。また亡くなると預金口座が凍結されるため、葬式費用や当面の生活資金を家族の口座に用意しておくと良いでしょう。
 お墓についても、永代供養墓や納骨堂など跡継ぎのいらないお墓や、散骨、手元供養などさまざまな形があります。お墓の希望についても家族と話し合っておきましょう。

エンディングノートを活用する

 終活にあたって行う5つの分野について解説してきましたが、これらの内容を整理するための便利なグッズがエンディングノートです。
 エンディングノートは、前述の5分野をはじめ、終活に関するさまざまな項目を書き込めるように作られています。エンディングノートのもっとも大きなメリットは、「整理する」「伝える」ことができることです。
 つまり、書き出すことによって、これから生きていくために必要な情報の整理ができ、また万が一の時にはそれらの情報を家族にも伝えることができます。さらに、災害時に持ち出すことで備忘録としても役立ちます。

「生きがい・目標」を持つことも終活

 前述のとおり、日本人の長寿化に伴い、老後の時間も長くなりました。
 仮に、大学を卒業する22歳から定年を迎える65歳までの43年間、毎年2,000時間(=1日8時間×週5日×50週)働くと累計86,000時間になります。一方、65歳から85歳までの20年間、毎日12時間の自由時間があると87,600時間(=12時間×365日×20年)と現役世代が働く時間を超えるのです。
 この長いセカンドライフを、自分らしく生きがいを持って生き生きと過ごすことはとても大切です。これから何をやりたいか、誰と会いたいか、どこに行きたいか、など整理してみることをお勧めします。それらの実現に向けて行動することが、充実した毎日を送ることにも繋がります。

 悔いのない人生だったと言えるように、また大切なご家族のためにも、上手に終活を行ってみてはいかがでしょうか。

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