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2016年7月号(1)
保険
CFP®認定者 塚野 玲子

認知症損害と個人賠償責任保険の改定

 2007年、認知症のため徘徊していた男性が線路内に入り列車にはねられ亡くなりました。この事故の損害賠償をめぐり、鉄道会社と遺族間で裁判が行われていました。
 一審は配偶者と長男に請求額全額の支払いを、二審では配偶者にのみ、請求額の半額程度の賠償金の支払いを命じました。今年2016年3月の最高裁の判決で、遺族に賠償責任はないという判決がおり、賠償金を支払う必要はなくなりました。しかし、もし遺族が敗訴していたら、賠償金の支払義務が生じることになります。

 この訴訟がきっかけになり、一部の損害保険会社で、認知症の方が事故で損害を与えた場合に保険金が支払われるよう、個人賠償責任保険の内容に改定がありました。今回はこの点も含めて、個人賠償責任保険の概要について紹介します。

 個人賠償責任保険とは、他人の物をこわしたり、他人にケガをさせてしまったときなどに、法律上の損害賠償責任を負う場合に保険金が支払われる保険で、被害者に対する損害賠償金のほか、弁護士費用、訴訟になった場合にそれに要する費用なども保険金支払いの対象になります。保険料は、保険期間1年、保険金額1億円に設定した場合、年間保険料は1000円から2000円程度が一般的です。

被保険者の範囲

 個人賠償責任保険は、ひとつの保険で家族が起こした事故を補償します。従来型の被保険者(補償の対象になる人)は以下のとおりです。
 ・本人、配偶者、本人または配偶者と生計を共にする同居の親族
 ・生計を共にする別居の未婚の子(仕送りを受けている学生など)

 上述の訴訟を受けて、一部の保険会社では被保険者(補償の対象になる人)の範囲を広げ、賠償事故を起こした被保険者が重度の認知症など「責任無能力者」の場合に、その人の「法定監督義務者」「代理監督義務者(親族に限る)」「親権者」を被保険者に追加するなどの改定を行っています。
 民法上、損害を与えた人が重度の認知症など「責任無能力者」の場合、本人が賠償責任を負うことはありませんが、その人の家族などが「監督義務者」として代わりに賠償責任を負うことになります。
 被保険者(補償の対象になる人)の要件に、「法定監督義務者」「代理監督義務者(親族に限る)」「親権者」が追加された保険では、損害を与えた本人と別生計、別居であっても「監督義務者」であれば、保障の対象となります。

補償の対象とならない事故も確認しましょう

 個人賠償責任保険は、他人の物をこわしたり、他人にケガをさせてしまったときに補償される保険です。前述のように線路内に立ち入ってしまった場合でいうと、電車の車両が破損したり、乗客がけがをしたりした場合は、遅延損害も含めて補償の対象となりますが、遅延のみの損害は補償の対象にはなりません。
 また、自分の車の使用、管理に起因する損害賠償責任については自動車保険の対象になり、個人賠償責任保険では対象外となります。
 このほか、職務遂行に直接起因する損害賠償責任、地震・噴火・津波に起因する損害賠償責任なども補償の対象にはなりません。

 前述の被保険者(補償の対象になる人)の範囲のほか、示談交渉サービスの有無、単体で加入できるか又は他の損害保険に特約として加入する形かどうか等は、各保険会社によって異なりますので、事前に確認が必要です。
 自動車保険、火災保険、傷害保険などの損害保険に加入している場合は、入っている保険に特約としてすでに付いている場合もあるため、付いている場合はその内容を確認しましょう。
 新たに加入を検討する場合は、上記の要件や補償の対象にならないケースなども確認し、ご家族に合う保険を選択することが大切です。

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